【講師インタビュー】高橋 直希氏|塾は“スーパーエンジニアに会いに行く場所“になる──AI時代に変わる、教えるという行為の意味

このインタビューでは、N Code Laboの講師として活躍する高橋氏に、アプリ甲子園での受賞歴や未踏プロジェクトでの実績を含む多彩な経験、そしてこれからの教育や技術のトレンドについて伺いました。

高橋 直希(たかはし・なおき)氏 略歴


2002年2月生まれ、神奈川県出身。東京科学大学附属科学技術高校 電気電子分野を卒業後、早稲田大学 基幹理工学部 数学科に進学。在学中の2020年に音声合成スタートアップ「株式会社CoeFont」を共同創業。現在は同社のセールスおよびカスタマーサポート部門の責任者も務めており、2024年度には経済産業省「未踏IT人材発掘・育成事業」にてスーパークリエータとして認定された。

主な受賞歴

  • アプリ甲子園2019 全国3位
  • 日本学生科学賞 入選1等
  • Apple WWDC Swift Student Challenge Winner
  • 言語処理学会 若手奨励賞(2025年)ほか多数

関連リンク

経済産業省|未踏IT人材発掘・育成事業スーパークリエータを認定
IPA|2024年度未踏IT人材発掘・育成事業「スーパークリエータ」
Apple WWDC Swift Student Challenge 受賞
Wantedly プロフィール|株式会社CoeFont 高橋氏
Git Hub プロフィール

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アイデアは「不便」から始まる──アプリ甲子園での原点

--- まず、高橋さんのこれまでの活動についてお聞かせください。特に印象に残っている受賞などはありますか?

やはりアプリ甲子園での受賞が一番印象に残っていますね。私が高校3年生の時、2019年のことでした。初めての挑戦で3位に入ることができました。

--- アプリ甲子園ではどのような役割を担われたのですか?

チームで参加したのですが、私はアプリ開発とプレゼンテーションを担当していました。特にUI(ユーザーインターフェース)とプレゼンに注力し、バックエンドは友人に任せていましたね。

--- アイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

アイデア出しは友人たちと一緒に行いました。最近作ってバズったアプリもそうなのですが、一番大事なのは「不便から始める」ことだと思っています。SNSなどでは不便な点がただ発散されていることが多いので、それを見つけて解決する。実際に使う人間がいるプロダクトが良いプロダクトなんです。

あとは、「技術的な隙間」ですね。多分できるけど面倒くさい、とか、世の中の動きが遅いからまだできていない、というタイミングで素早く作って出すのがアプリ甲子園では大事です。私たちが作ったのはARで見ることができるナビゲーションアプリだったのですが、これは2年後くらいにはGoogleマップに標準搭載されました。

そういう意味で「過渡期」を読んで、そこに先進的なアプローチをするのが一番良いと思います。アプリ甲子園は、単純な技術力だけでなく、課題感を見つけ、それを進化させることが非常に大事だと感じています。

多数の賞を受賞、特許取得も

--- アプリ甲子園の他にも、同年に多くの賞を受賞されていますね。

はい。韓国科学アカデミー科学フェアでの日本学生科学賞入選一等や、ポスター日本語部門での受賞は、全て高校の課題研究で作ったデバイス関連のものです。例えば、地震時に窓ガラスが割れて怪我をしてしまうことを防ぐために、カーテンを自動で閉めるデバイスを作りました。これも、困り事から生まれる発明、という感じですね。

--- 特許も取得されたことがあると伺いました。

ええ。高校1年生の頃に「アイデア特許」を取った気がします。ライブでサイリウムを傾けたら同期して色が変わる、というようなアイデアでした。高校側もある程度支援してくれましたね。

--- 小学校や中学校時代も何かアウトプットされていましたか?

小中時代はほとんどないですね。ロボット系の大会には出ていましたが。ちゃんと自分用のパソコンを持って本格的にやり始めたのは高校生になってからです。

--- それは意外です。ご両親はエンジニア系なのでしょうか?

いえ、両親ともに学校の先生です。「進路では絶対に先生にならない」というくらいしか影響を受けていないです(笑)。両親は二人ともパソコンが全くダメなんですが、そんな中で唯一良かったのは、「分からないことにはお金を払う」という感覚を持っていたことですね。昔はめちゃくちゃ高いパソコンのサポートに入っていたりもしました。その「とりあえずお金を払って学ぼう」という姿勢は今でも尊敬しています。

技術者×経営者の二刀流

--- 現在のご両親との関係性、そして経営者とエンジニアの二刀流についてもお伺いしたいです。現在、高橋さんはCoeFontの創業メンバーとして活躍されています。経営者とエンジニアの二刀流で大変な点はありますか?

そうですね、特に技術的な商材を扱う場合、営業担当者も製品に関する深い知識を持っていると、お客様とのコミュニケーションがより円滑に進むことが多いと感じます。技術的な背景を理解することで、より的確な提案が可能になります。その「緩衝材」になりつつ、経営的な視点を持たなければならない、というところがあります。非エンジニアに技術的なログなどの理解を求めるのは難しいですから、それを私が解釈して伝える必要があります。

逆に、エンジニアとして問題なのは、「エンジニアリングを自分でやったらただ(無料)」という感覚が強すぎることですね。経営になるとその考えを持ち続けるのは良くありません。例えば、ちょっとしたことでも外注すればいいのに、自分でやってしまう手間やコストを考えられなくなってしまう。

ここを「諦める」ことが会社としては非常に大事です。初期段階で節約のために自分でやるのは良いですが、会社を数年やってまだその気持ちを持っていると、エンジニアには向いていても、経営者には向いていないでしょう。どこまで任せるか、知らなくていいことは知らなくてもいいと割り切れるか、が大きな違いです。

私はバイスディビジョンヘッド(部門長)として国内のセールスやCSを統括する立場になって、その感覚が変わりました。エンジニアは時間で成果が出にくいですが、CSやセールスは時間に発生するので、時間効率を求めるようになります。

AIは縛れるが、人間は縛れない──エンジニアが語るマネジメントの難しさ

--- エンジニアとマーケターの相性についてはいかがでしょう?

よく近いと言われますが、マーケターはエンジニアである必要はあまりないと思っています。やっていることはPDCAを回すことなので、それはウェブデザイナーやUXを考える人の才能であって、エンジニアリングではありません。

ただの論理的思考、実験思考に近く、そこができれば良い。マーケティングツールがエンジニアリングされているせいで、ある方がいいと言われるだけですね。原因分析などができる人間であれば誰でも正直良いです。

--- エンジニアリングとマネジメント、ご自身はどちらが向いていると感じますか?

マネジメントですね。結局、エンジニアリングはAIをマネジメントするか、人間をマネジメントするかの二択になってきていると思うのですが、AIをマネジメントするのはやり方が定まっているので意外と簡単なんです。しかし、人間のマネジメントは「諦め」が必要です。AIは自動で必ず報告ラインに乗ってきますが、人間が報告ラインに乗るかは人間次第ですからね。

もし高校1年生に戻ったら、何を学ぶ?

--- 技術トレンドについても伺いたいです。今、15歳の高校1年生だとしたら、どのような勉強をしますか?

私が始めた頃(2017年頃)はPython 2.7で機械学習が流行り始めた時期で、OpenCVなどで画像処理がやっとできるようになった時代でした。当時、初心者は適当なプログラミング言語の年収ランキングなどを見て言語を選びがちでしたが、今もし私が15歳なら、iOS(Swift/Objective-C)、Dart/Flutterを学習すると思います。

--- それはなぜでしょう? Webではなく、モバイルアプリなのですね。

個人開発において、Webは終わると思っています。リリースはしやすいですが、メンテナンスが面倒で対応機種も多く、儲からないしアドブロックされる。労力に見合わないんです。逆に、最近はスマホに最適化されすぎて、アプリを入れることへの抵抗感がなくなってきています。

Progressive Web App(PWA)も流行りましたが、最近は下火になっています。
Webは手が届きやすい分、考えることが多すぎます。スクレイピング対策やハッキング対策を考えるくらいなら、iOSアプリで構築して、考えることを減らした方が経験値もたまりやすいです。

“記憶”はいらなくなる時代へ

--- では、ポストスマホの時代には何が来るとお考えですか?

私はARグラスに全てをベットしたい気分でいます。Apple Watchの次に来るのは、iPhoneを代替するARグラスだと信じています。ARグラスが発展すれば、人前でスマホを使うことへの心理的抵抗が革命的に変わるでしょう。それが「身につけているもの」として認識された瞬間に、「記憶」という分野が圧倒的にパラダイムシフトします。

アノテーションがその場で表示されるようになれば、ものを覚える必要はなくなるわけです。人間の能力拡張としてARは大きいですね。教育においても、構文を覚える必要はなくなり、より広いことを考えられるようになると思います。

--- 新しいアイデアを出すために、普段どのような情報収集をされていますか?

情報収集はX(旧Twitter)とRedditがメインですね。Xは広くトレンドを掴むのに、Redditは海外のニッチな情報や動向を見るのに優れています。Discordはコミュニティ形成には良いですが、深すぎるのでバズるものを予見するには広範な情報を拾いにくいです。バズるというのは、技術ではなく、タイミングと文脈を読む能力だと思っています。

これからのプログラミング教育に必要なのは、“数学”より“国語力”

--- 教育についてもお伺いしたいです。プログラミングと相性の良い科目はありますか?

プログラミングにおいて、中学数学までは基礎教養としてできた方が良いです。それ以上、例えば微分積分ができなくても困ることはあまりありません。

これからは国語だと思います。そもそも国語力が低いのが一番プログラミングでダメだと思っています。伝えたいことをただ言えるだけでも十分すぎるほどです。数学の三角関数がゲームプログラミング以外で生きる場があまりないのに対し、国語力、特に「表現力」は必須です。文章を読んで見つけるだけでなく、自分の頭の中にあることを文章としてちゃんと書く能力が非常に大事だと感じます。

さらに言えば、「論じる力」や、相手が何を認識しているか、どこまで話せば伝わるのか、という「相手の立場に立って考える能力」が重要です。日本語はハイコンテクスト言語なので、ローコンテクストで伝えられる力がプログラミングにも活きてくるでしょう。

AIが発展していく中で、人間に残る最後の能力は、まさにこの「把握する力」だと思います。従来のプログラマーに多かった「コミュニケーションが苦手」というイメージは、今後は変わっていくでしょう。AIが何を見えているかを理解しないと、AIとのコミュニケーションも取れませんからね。

答えよりも“なぜそうなるか”──数学の壁

--- 現在、高橋さんが直面している「数学の奥深さ」とは、具体的にどのような領域なのでしょうか?

カーネルという機械学習の回帰の話なのですが、機械学習の文脈だと、数学的に適当なことをやっている教科書が多いんです。だから、なぜその式がそのタイミングで出てくるのか、その「ストーリー」や「歴史」が教科書にどこにも書いてなくて、自分で埋めていくのが苦しいですね。

言わば、連立方程式の答えだけ見せられている感じです。今後はAIがある程度賢くなると、何も言わなくても答えを出してくれるので、途中の思考プロセスを考える必要がなくなってしまう可能性もあると思っています。それは九九を暗記するのと近い世界になるでしょう。

「塾に通わせない」という選択──教育の本質は、親のアップデートにある

--- 最後に、プログラミング教育について高橋さんのお考えを伺いたいです。ご自身のお子さんができたとして、プログラミング塾に通わせると思いますか?

通わせないですね。私の母親も英語がペラペラなのに、私を英語塾には行かせませんでした。「英語なんて頑張ればできるんだからわざわざ行くもんじゃない」と。おそらく、自分ができたから子どももできるだろう、という感覚があったのだと思います。

正直、プログラミング塾の中には、学童のようなコミュニティとしての価値しかないところが多いと感じています。友人ができて、居場所ができる、という価値はありますが、論理的思考が育つわけではありません。

価値のある塾とは、「何でも答えてくれる先生がいる塾」しかないと思います。スネ夫にスネ吉兄さんがいて何でも持ってきてくれるように、生徒のやりたいことを適当に言っても、「なんとかするよ」という度量のある人間がいる塾です。これからは「人に会いに行く」ことの方が価値を持つでしょうね。

むしろ、保護者向けのコーチングサービスの方が大事だと思います。保護者の方が時代についていけていない人が非常に多いので、お金を出す親の考え方が変われば、子どもの人生は絶対に変わります。親が「パトロン」として子どもの人生を決める側面もありますから。高校生以上なら生徒に直接教え込んでも良いですが、中学生以下であれば、親に教育した方が絶対良いですね。子どもが自分の人生を自分で考えられるように、親が変わっていくことが大切だと思います。

これからの時代は専門性が高くなりすぎて、全てをマスターするのはほぼ不可能です。だから、大事なのは「どこで諦めるか」です。例えば、この子は数学の才能がないなら、無理に伸ばそうとせず、最低限の義務教育を受けたらそれ以上は求めない方が良い、ということを親が理解すべきです。子どもの学力を心配に思っていても、必ずしも勉強の道に進ませなければいけないわけではなく、他の道で活躍を目指してもらうという選択肢もあります。

私自身の自立心や勉強したいという欲求は、中学受験で慶應を3つ受けて3つ落ちた時に初めて芽生えました。その時初めて、「人生って勝手に進まないんだな」と知ったんです。

--- 貴重なお話をありがとうございました。

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